法律学習、資格試験、交通事故処理、ときどき書評や物語-ネイヤーズ六町東浦法務事務所(仮)

次は司法書士とるぞ! おかげさまで行政書士試験は突破できました2020!交通安全アドバイザーのhigashiです。

5.日数による逓減がない

今回も自賠責保険の続きです。少しずつマニアックな内容になってきますが、引き続きお付き合いください。

さて、交通事故の場合、赤本基準や任意保険の基準では、日数の経過によって1日あたりの慰謝料の金額が減額していきます。例えば、事故発生直後には1日あたり4000円であった慰謝料が365日経過すると1日あたり2600円程度になるわけです。365日で治療を終了し慰謝料を計算する場合、この例の数字で行くと、2600円に365日を乗じて94万9千円が慰謝料の金額になります。どのぐらい金額が下がっていくのかは各所様々ですから、この数字はあくまでも例です。

交通事故治療では、総日数と実日数という2種類の日数を基準として考えます。実日数は読んで字の如し、実際に病院にかかった日数です。1ヶ月の間に4回通院をしたら実日数は4となるわけですね。総日数は治療の期間と考えると分かりやすいと思います。事故発生し初診の通院を受けてから3ヶ月後に治療終了したら総日数は3ヶ月ですから、例えば4月、5月、6月ならば30+31+30で91日となります。

任意保険や赤本基準は総日数を基準として計算をしますが、自賠責保険の場合は日数の経過による金額の減少はありません。自賠責保険は独特のルールとして、通院実日数の二倍と総日数を比して少ない方に規定の金額である4300円を乗じて慰謝料を算出することになっています。この4300円が100日だろうが150日だろうが減額されない、これが自賠責保険のポイントの一つと言えるでしょう。120万円の枠の内側に収まっている以上は仮に治療に400日かかっていても、1日あたりの慰謝料は4300円のままです。よって、赤本基準ではまず心配入りませんが、任意保険基準で処理をすると自賠責の基準を下回ってしまう、といったことが発生してしまう場合があります。この場合は、自賠責保険の枠が残っている状況で自賠責保険以下の条件での示談は原則不可、ということで縛りをかけているようです。自賠責は最低限の損害賠償義務を果たすための保険ですから、そこからの給付を受けることができるにもかかわらずそれを下回った条件で任意保険会社が示談することは許されないということですね。

今回の部分は、交通事故賠償実務の全体像についてある程度掴めてからでないと少し分かりづらいかも知れません。この慰謝料計算の仕組みを理解していると、最終的にはかなり裏技的なテクニックも使えます。つまり、普通にやると回収不能な部分を無理矢理回収するようなことが出来てしまう……そ雨いったテクニックの入り口になる部分でもありますから、ぜひ記憶の片隅にとどめておいていただけたらと思います。

お疲れ様でした!

自賠責保険4.早い者勝ちです

お疲れ様です。

 

さて、今回は自賠責保険の第4回ということで、「早いもの勝ち」という部分のお話ですね。ここは、極めて単純な、「そりゃそうだよね」の部分ですから、簡単に流していきましょう。

 

自賠責保険に請求をする場合、その費目は色々あれど、とにかく後遺傷害を除いた入院・通院部分は慰謝料まで含めて120万円まで、というのが大原則です。従って、先に請求をし、認定をされた側から枠を順次消費していき、120万円に到達したらそこで自賠責分は終了ということになります。

 

加害者は医療費を毎月精算し、かつ慰謝料も含めて100万円を支払った。

被害者は交通費、休業損害及び未だ受け取っていない慰謝料の残50万円の債権を有する

 

この時に、先に加害者が請求をすれば、問題なく認定されたとして100万円を自賠責から回収することができますが、被害者は仮に全て認定されたとしても20万円しか受け取ることはできません。これが基本です。なお、仮にこの加害者と被害者が同時に請求をしたらどうなるか。そういった時は加害者請求が優先されるようです。既払いが優先されるということですね。

 

他保険からの求償があり、求償権者に自賠責へ請求するよう促したりする場合は同様にこの早いもの勝ちの中で枠を奪い合うような形になりますが、これは状況によって、あえて自賠責保険へ請求させるようなこともあれば、逆に、求償については自賠責保険を経由せずに対応していくような場合もありますのでケースごとに考えるべき部分です。(私傷病も混入しており、その切り分けがかなりしっかりと必要なパターンなど、かなりマニアックな内容ですからまた別の記事で解説します)

 

以上が自賠責保険、早い者勝ちのポイントです。

お疲れ様でした!

自賠責保険3.過失減額が独特です

お疲れ様です。

交通事故では双方に過失がある場合、その過失の割合によって損害賠償を決定していくことになります。こういった書き方をしてしまうと、民法の相殺の部分を勉強していると、ん? あれ? となるかもしれませんが、実務上どんな感じで処理をしているのかを簡単にご説明いたします。

 

1.まずは物損部分と人身部分に切り分けます

規模の大きい交通事故の場合は切り分けずに一緒に進めることもありますが、基本的には物は物、人身は人身で分離して処理をしていくことが多くなっています。今回は自賠責保険についての解説が趣旨ですから、ひとまず対物はおいておきましょう。

 

2.基本は第一当時者側が一括して対応

人身事故が生じると発生する費用の中心を占めるのはやはり治療費、ということになると思います。一般的な損害賠償の考え方では「発生した損害」を「被害者が立証して」「加害者に請求」と言うのが通常の流れですが、交通事故で人身負傷がある場合はとにもかくにも治療を進めてもらわなければなりません。しかし、この治療費を被害者が全て立て替えていく、と言うのは自賠責保険の1点20円、10割請求を考えればあまりにも被害者の負担が大きすぎます。そのため、事故第一当事者側が、治療費をその都度精算していくことになります。つまり、交通事故の事実が明らかである以上、事故で負傷をした人は医療機関で診察、治療を受ければそれ以上の立証は必要ありません。第一当事者側は精算した治療費を自賠責保険から回収するために診断書、診療報酬明細書を医療機関から取り付け、治療費を支払ったことを証する情報と合わせて自賠責保険へ請求し、回収をしていくわけです。

では、第一当事者側が治療費などを精算していく際、事故で負傷をした相手方にも過失があったとしたらいかがでしょうか。その過失の分、精算をする治療費を減額しても良いのか、ということがしばしば問題になります。

 この点、実務上の処理は、誰にどういったお金を支払うのかによって変化します。

 

3.病院に直接に治療費を加害者が支払う場合

 この場合、病院は過失分については被害者に請求、のようなことはしてくれませんから原則として全額を病院に支払うようになります。支払った金額のうち相手方過失分の処理については直接に相手方に返済を求めてももちろん構いませんが実務上は困難ですので、最終的に全ての治療が終わり、総損害を算定する際に過払いとして扱い、これから支払う慰謝料から減じるのが一般的です。ただし、当該事故の人身部分の総損害が自賠責保険の範囲内である場合は、相手の過失が70パーセント未満であれば、過失を考慮せず全額を賠償して問題ありません。ここが自賠責保険の特徴的な部分であり、自賠責保険では例えば50:50の過失の事故であっても、入通院部分であれば120万円までであれば減額することなく給付されます。出来るだけ広範囲の被害者を救済していく保険制度ですから、その特徴的な部分と言えるでしょう。なお、過失が70%以上である場合は入院通院部分については20パーセント減額の対象となり、全額を支払ってしまうことによって自賠責からの回収が一部不能になってしまう可能性がありますので注意が必要ですが、過失状況から70%以上か60%なのかがはっきりと定まるような交通事故は少なく、明らかに90%以上相手方負傷者が過失を有する、といったようなケースでもない限りはあまり問題にならない部分です。

 

4.相手が治療費を立て替えている場合

 あらかじめ相手の過失分を減じることも検討できますが、治療をしっかり継続し妥当な期間内で終えていただくことを前提に考えれば、一旦全額を精算すべき部分でしょう。前述同様、慰謝料で調整するべき場面です。

 

5.休業損害の発生がある場合など

 相手方過失が考慮しなければいけない程度に大きく、かつ休業損害などの周辺損害が生じている場合は取り扱いに注意が必要です。相手方が過失割合についてある程度納得をしている場合については慰謝料で調整することを事前に通知しておくのが良いでしょう。多くの場合、休業損害として支払う損害賠償金は負傷者の生活の糧となるものであり、それを減額することは最終的な示談交渉のことを考えるとあまり望ましくありません。しかしながらどこかで減額は必ずしなければならない以上、最終の慰謝料で調整することは言いづらくても最初に言っておく。これが大事です。調整の対象は治療費にも当然に及びますから、あまり長期間の休業はすべきではない、ということが相手に伝わればシメたものです。また、事故相手が過失についてある程度納得しているということは少なくとも対話ができる状況であると思われますから、こう言ったケースではむしろ第一当事者側からロードマップを提案し、負傷者が最も損を少なくできるように提案してあげるのが良いでしょう。

 一方で、相手が過失に納得していないケースでは、休業損害は支払うけれど慰謝料で調整する、と言ってもそう簡単には納得しないでしょう。過失に納得していないということはその納得していない分だけ被害者意識がある、ということですから、こう言った場合通院や休業損害の長期化も懸念されます。だからこそ、慰謝料で絶対に調整すること、過失割合は納得の問題ではないことを強く、そして冷静に、繰り返し主張していきましょう。相手側に請求できる自分達側の損害があればその存在をちらつかせることも有効です。そうすると、相手は「ならばどうすれば良いのか」という方向に行きますので、そこからが事故処理実務者の腕の見せ所です。弁護士を入れさせて、その上で治療費の一括や休業損害を全て止めてしまうのも一つの手です。損害賠償請求の原則である、「被害者が」「損害を立証して」「請求する」形に戻してしまうわけですね。とはいえ、全てを打ち切るのはあまりにも強硬に過ぎますから、例えば休業損害については打ち切るが治療費の一括は続ける、など選択的に組み合わせて使っていくのが良いでしょう。治療費の一括を続けることは、診断書、診療報酬明細書の取得など第一当事者側にもメリットがあるからです。

 

今回は少し長くなりすみません。

お疲れ様でした。

噛み砕き民法−4 意思能力

お疲れ様です。

今回の噛み砕き民法では、かなり漠然としたテーマではありますが意思能力を取り上げます。民法の学習全体を通して重要な部分ではあるものの、具体的な設問となるかといえば、まあ、あまりなりません。どちらかといえば、この先の民法の学習を進めていくにあたっての前提みたいな部分ということになりますから、あまり血眼にはならずに、そういうものなんだ、と押さえておけば問題ないと思います。

 

意思能力は、ざっくり言えば、自分のした法律行為の意味がわかるかどうか、ということです。よくある例で恐縮ですが、コンビニに行って、おにぎりを一個くださいな。お金を支払わなければいけません。この一連の流れ、物品を売買するっていうことがちゃんとわかるかどうか、みたいな感じですね。お金とは何か、みたいな知識が求められるわけではなく、売り買いっていうことがどういうことをするのか、みたいな大枠を理解できる程度の能力があるかどうか……一般的には小学生の中学年ぐらいの子だったらもうわかっていると思います。ただ、判例ではこの意思能力を対象となる法律行為で柔軟で考えるようにしているようです。コンビニでおにぎりを買える子供が証券取引をできるか……多分無理。まあ、そういうことです。大人になったって、そういう商売についていなければ手形の取引なんてよくわからない人、いると思います。

 

意思能力のない人がした法律行為は無効です。ところで無効ってなんでしょう? これはまた追って取り上げますね。無効と取り消しの違いは法律初学者の最初の関門といっても過言ではない、とても重要な部分です。とりあえず今のところは、意思能力なし=無効なんだ、とチェックしておきましょう。

 

次の回ではこれらの能力についてもう少し掘り下げる話をし、制限行為能力者に進んでいきます。

 

お疲れ様でした!

自賠責保険2.上限枠120万円を意識しよう

お疲れ様です。

 

 今回は項目の二番目ですね。自賠責保険の傷害部分の上限についてです。前回の記事でも触れた部分と重複しますが、自賠責保険の傷害部分、より正確に言うならば入・通院部分には慰謝料まで込みで120万円という上限が設定されています。一般的な交通事故被害者が自ら被害者請求をかけていくようなケースではほとんどの場合、相手方任意保険の介入が見込めないようなケースですから、後遺障害は別にしても、交通事故人身被害について回収できる上限金額がこの120万円ということになります。ここはしっかり、事故発生当初から意識をしていくようにしましょう。

 交通事故が発生して主にかかる費用は、まず医療費です。整形外科にや接骨院で治療を受ける費用や処方箋を持って薬局から薬をもらう費用も含まれてきます。この医療費は、被害者請求をしなければいけない状況においては絶対に健康保険を使ってください。(業務中であれば労災になりますのでこれはまた機会を改めます)

 自賠責保険で処理をする場合は10割請求かつ1点20円から30円程度ですから相当に高額になりますが、現在は第三者行為届の提出を前提にすれば健康保険を使用して交通事故治療を受けることが基本的には可能です。この場合は1点10円かつその3割を自己負担し、この自己負担分を自賠責保険に請求するようになります。(残り7割は健康保険が負担し、交通事故相手やその加入している保険に対し、過失割合に応じて支払うよう請求—求償—します)

 時折、自由診療でなければ交通事故を見ない、などといったことを主張する病院がありますが、経験上、この手の医師はろくな者ではないので診療を受けない方が良いです。大体は腕も悪いです。相手が任意保険をつけていなかったり、自身の過失が大であり一括対応を受けられない場合などで被害者請求をかけていく状況下においては自身が加入している自動車保険の人身傷害保険を使用していくことができる場合がありますが、この場合も健康保険を利用するのが原則ですから、健保で事故の治療を受けられない、などと言っている病院は、おそらく早晩相手にされなくなるでしょう。なお、病院への交通費や自家用車を使用した場合のガソリン代、コインパーキング代なども合わせて請求することができます。

 その他損害として枠を圧迫しやすく、損害としても生じやすいのは休業損害でしょうか。これはその人の仕事の形態によって大きく変わりますので少し説明しづらい内容ですが、一般的な会社勤めの場合は勤務先から証明書の発行を受け請求することが可能です。詳細はまた別の項で取り上げます。

 これら損害に、慰謝料(前回記事でも取り上げた通り、実際の通院日数の二倍または全体の通院期間のいずれか短い方に4300円を乗じた金額)が加算され、その合計が120万円以内が自賠責保険からもらえるお金、ということになり、これがそのまま、「絶対に健康保険で受けてください」の理由になります。つまり、合計120万円に至るまでにたとえば1回500点の治療を受ける場合、健康保険であれば自己負担1500円を自賠責保険請求して回収していくようになります。もちろん、残りの7割を健康保険組合自賠責保険や相手方に求償していくことになりますが、それはずいぶん先の話です。一般的に、治療が継続している間に求償をすることはありませんし、治療が症状固定になったとしても、平均して1年は請求がかかってきません。ですから、実際の治療状況などにもよりますが、求償が自賠責保険の枠に伸びてくる前に必要な分をしっかり回収してしまうことができるわけですね。ちなみに健康保険が自賠責保険から求償しきれなかった場合は相手方に請求する等します。自分に跳ね返ってきたりはしないのでご安心ください。(保険金詐欺みたいなおかしな案件でどうなるのかはやったことがないので分かりませんが一般的な使い方であれば大丈夫です) 

今回は内容が少し漠然としていてわかりづらかったかもしれません。とにかく自賠責で大事なのは、自賠責の枠内で収めることを事故発生当初から意識する、ということです。今回は被害者請求でご説明致しましたがこれは加害者請求でも同じです。相手の過失が大きいが一括対応せざるを得ないようなケースで相手方に健保利用を求めていくことで自賠責範囲で収めていくことができますから、ぜひこの点は意識してみると良いでしょう。

 

お疲れ様でした!

噛み砕き民法-4:失踪宣告

お疲れ様です。前回の不在者制度と今回の失踪宣告制度はワンセットでざっと押さえておきましょう。

 

 失踪宣告制度には二種類あり、飛行機や船舶の事故などを想定した特別失踪とそれ以外の普通失踪が設定されています。どちらも、行方をくらましてしまった人を死んでしまったものと法的に位置づけ、相続その他の法律関係を前に進めるための制度です。生きてるかもしれないけれど、とりあえず死んじゃったということにして色々片付けましょう、ということですね。時間が止まらない以上、仕方ないということです。そんな、人を死んだことにしてしまうという制度ですから、前回の不在者制度とは異なり、検察官が申し入れることはできません。利害関係人だけです。親族や配偶者、そして、ここには不在者財産管理人も含まれます。

 

仕様は以下の通りです

・普通失踪:失踪期間は7年 最後に生存していたことがわかっている時から起算し、期間満了を持って死亡とみなす

・特別失踪:失踪期間は1年で、危難(戦争や船舶、航空機の事故など)が去った時から起算。危難の去った時に死亡したとみなす

 

利害関係人に不在者財産管理人が含まれていることからもわかるように、不在者財産管理制度で管理人が選任されていても失踪宣告の申し立てをすることができます。両方の制度はぶつからずに並走できるということです。

 

失踪者の持つ権利はどうなってしまうのか。これは重要な部分です。

人は出生と同時に権利能力を得て、死亡するとそれが消滅する、ということになっていました。では、死亡したと制度でみなしたけれど、実は生きていた! この時は権利能力は失われません。その人が新たに誰かにお金を借りたり動産を購入したりしても何ら問題はありません。ただ、失踪した時に残してきた財産なんかは死亡したとみなされた時に法的に処分がされてしまう。つまり、相続されたりしてしまうわけです。そういう制度ですから、もし、失踪宣告をしてもらったけれど実は生きていた、という場合にはそれを取り消す制度があります。取り消すと、相続だったり財産の処分だったりは全て元の状態に戻るのが原則ですが、それでは不都合が生じる場合がありますから、ちょっと制限をかけています。実際問題、失踪状態になってしまった人が実は生きていた!という状態、ずっと待っていた利害関係人もいるわけですから、全部、100パーセント失踪者を保護します、というわけにも行かないということですね。

 

まず、失踪宣告を原因として財産を取得したら、現存利益を返すだけでOK!となっています。現存利益というのは要するに手元に残っている部分だけ、ということですが、注意点として、生活費に使った部分は現存利益に含まれるけどギャンブルなんかに無駄遣いしたものは含まれないということです。何でよ、ってみんなが思う部分ですが、そういうものだと覚えてしまいましょう!

また、失踪宣告後に取引なんかがあった場合、双方とも「生きているなんて全く知らなかったよ!」という状態であればその取引は有効です。取り消されませんし無効でもありません。失踪したAさんの唯一の相続人Bさん、BさんからAさんの残した財産を売ってもらったCさん、という状況であれば、BさんCさん善意であればCさんは何の問題もないです。返さなくてOK。Bさんについては、仮に失踪宣告取り消し、ということになれば、上にあるように現存利益だけ返せばOKです。これは、CさんからさらにDさんに財産が売られて、Dさんだけは実はAさんの生存を知っていた、という状態でも同じです。Dさんは保護されるわけですね。Aさんからしたらおかしいよ!と言いたいところですが、そういうことになっているので、Aさんは諦めてください。

婚姻関係も同様の制限を受けます。つまり、上と同じ関係で行けばA失踪、BはAの配偶者で、失踪宣告を受けて新たな配偶者Cと結婚をした。この場合、BC善意ならABの結婚はたとえAが実は生きていた、という場合でも復活しません。BCどちらかが実はAの生存を知っていた場合、後のBCの結婚については重婚ということになり、婚姻を取り消す原因になります。ABの結婚については復活しますが離婚の原因ということになります。

 

ABCと登場人物があれこれ出てくるとややこしく感じるかもしれませんが、民法の規定のほとんどはきちんと紐解けば「まあそりゃあそうだよねえ」と腑に落ちるものばかりです。よくわからなくなったらそれぞれの関係性を簡単な図にしてみるとわかりやすいでしょう。

 

次回は、意思能力について噛み砕いていきます。

お疲れ様でした!

自賠責保険1.入・通院部分と後遺障害・死亡部分に分離

※当ブログに記載の自賠責保険等話題については当方交通事故処理の中で実例として生じた内容を一般化した上でお伝えしているものです。個別のケースで自賠責調査事務所の見解が異なるなど、違った結果が生じる場合があります。あらかじめご了承いただいた上で参考としてお読みいただければ幸いです。なお、当ブログの記事に基づく保険回収などで損害が生じた場合、当ブログではいかなる責任もおいかねます。

 

お疲れ様です。

さて、自賠責保険のいよいよ各論部分ですが、ここからは本当に突っ込んだ話になっていきますから、読んでもよくわからん!ということもあるかもしれません。出来るだけ丁寧に進めていくつもりですが、もし不明点などありましたらお気軽にお寄せください。

 

 早速ですが以下のようなケースを想定してみましょう。

 

 1月1日、A車がB車に追突し、B車運転者が負傷した。

 このケースで自賠責保険を適用していく場合、加害者請求であればA車がB車運転者の治療費などを支払い、その支払った分を自賠責保険に請求をしていくことになります。ここでの上限は120万円、というのは前の記事でも触れた通りですね。一つ注意をしていかなければいけない点は、この120万円には慰謝料も含まれる、ということです。また別の記事でもう少し詳細にご説明いたしますが、自賠責保険の慰謝料は、治療実日数に2を乗じた数値または治療の総日数のどちらか小さい方に4300円を乗じたものが支払われます。そして、これは1回病院に行くごとに発生しますから、例えば上の例でいくと1月に4回通院し、AがBの治療費4回分を支払い自賠責保険請求をした場合、実日数の二倍は8、総日数は31日なので、自賠責保険上の慰謝料は¥34,400が発生しています。治療費が4回で10万円発生している場合、すでに一ヶ月で¥134,400が自賠責保険上の総損害として発生しているわけです。今回は交通費などの周辺損害はないものとしましょう。

 では、この事故の治療が全部で6ヶ月かかった場合を考えます。各月4回の通院であったとすると、実日数の2倍の方だけを見れば問題ありませんから総日数は割愛します。

実日数24日 x 2 =48 

48x4300=¥206,400

各月に治療費が10万円ずつ発生している場合、これに60万円が加算され、¥806,400が総損害となります。

 

 同様の日数で、途中4ヶ月に休業損害が10万円ずつ発生し、賠償しているとしたらどうでしょうか。上の金額に40万円を加算すると¥1,206,400となり、120万円を超過してしまいました。この場合、示談の段階で慰謝料を減額して支払わない以上は自賠責保険からのみでは加害者請求で回収しきれない、ということになります。このような事態にならないようにするために保険会社は自賠責保険を慰謝料等まで含めて超過しないタイミングで治療費の打ち切りを打診したり、早期に示談をしようとしてくるわけですね。

 ここからいよいよ後遺障害との分離の話になりますが、後遺障害分の慰謝料等はこの120万円の枠の外側、等級別に別途設定された金額が支払われます。引き続き上の例を用いていくと、この六ヶ月目で症状固定として示談をしていく場合、後遺障害の認定を取ることによって、被害者は傷害分慰謝料にくわえて後遺障害分慰謝料+逸失利益(14級9号で最高75万円)を受けることができます。これは、場合によっては事故被害者に有利な条件と言えるでしょう。治療をさらに続けていくことによって残存する症状がなくなればそれはそれで良いことですが、当然に後遺障害は認定されず、その分の慰謝料を受け取ることはできなくなります。早期に症状固定とし後遺障害を含んで示談をすることは相手方にも金銭的面においてはメリットになりますから、それならば、と早期の示談に応じてくれる場合もあります。そうなれば、加害者としても早期に事故解決をしていくことができるわけで、保険の仕組みによってWINWINが構成できるわけです。後遺障害がそもそも認定されない場合もありますから一概には言えませんが、加害者側の誠意として、こういった選択肢は提示してあげるべきでしょう。なお、こういった自賠責保険ベースでの後遺障害の話題になると弁護士を立てて増額、といった話が入ってきますが、それが必ずしも大正解とはならないケースもあります。これについてはまた後日別の記事で解説いたします。

 

 最後に少し裏技めいたお話をしましょう。

 総論部分で触れましたが、加害者請求と被害者請求では加害者請求が優先されます。そして、任意保険会社ではない、例えば事業者が独自で事故処理を行なっていく場合、後遺障害の認定は原則被害者請求になります。(任意保険会社は先行して事前認定をし慰謝料を算定することができます)そこで、こういった事前認定をできない状態であるとして、加害者側から、被害者には後遺障害を被害者請求してもらう段取りを整え、並行してすでに入院通院分で確定している分を慰謝料まで含めて支払ってしまい加害者請求に回してしまう。この場合、どうなると思いますか?

 

 上で入・通院分と後遺障害分は分離されている、と記載した点と矛盾しているように感じられるかもしれませんが、自賠責保険の場合、入・通院分として認定可能な上限120万円を超過して賠償を行なっている分は後遺障害の既払い(内払い)として認定してくれます。よって、この例でいくと6400円は後遺障害分の慰謝料として先払いをしたものだよ、として加害者請求分で戻してくれるわけです。被害者請求された後遺障害分は6400円を差し引いたものが支払われます。ただし、これはもちろん、後遺障害がすでに自賠責保険として認定されている、または後遺障害分の被害者請求段階で加害者請求が到達していることが前提です。競合する加害者請求があるかどうかを自賠責保険から問い合わせてくれる場合もあるようですが、当方で持つ先例としては特に問い合わせはありませんでした。(特殊な事例かつ規模の大きな事故で当面の生活費として120万円を超えて先行して内払しているようなケースで、自賠責保険には既に振込の控えなどが回った状態で保留扱いになっていたもの)

後遺障害分の支払いが既になされてしまっている場合どうしようもありませんが、調査中の段階で加害者請求を入れていけば十分に間に合うタイミングですから、示談交渉の中で、ひとまず確定している分は先に支払います、という話にしてしまえば、こういった手段をとっていくことも出来る、というわけです。

 

 後半の裏技的な回収方法は当方でも先例が少ないため、必ず成功するとは言い切れません。予想もつかないような理由で失敗することもありますから、その点は悪しからずご了承ください。また、特殊な例を体験した情報などお持ちの方はぜひお寄せください! 

以上です。

お疲れ様でした!

 

 

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