Metal Intersections-4 HELLOWEEN / Dark ride
1. ビヨンド・ザ・ポータル
2. オール・オーヴァー・ザ・ネイションズ
3. ミスター・トーチャー
4. エスカレイション・666
5. ミラー・ミラー
6. イフ・アイ・クッド・フライ
7. サルヴェイション
8. デパーティド
9. アイ・リヴ・フォー・ユア・ペイン
10. ウィ・ダム・ザ・ナイト
11. イモータル
12. ダーク・ライド
13. マッドネス・オブ・ザ・クラウズ(日本盤ボーナス・トラック)
HELLOWEENのアルバムをレビューするのは結構難しい。多くのバンドにも当てはまる部分もあろうがメンバーの変遷やバンドを取り巻く環境による影響がサウンドそのものに直結しているケースが同バンドは非常に多く、作品論的な評価をするためにも作家論的な部分に触れざるを得ない。今回紹介するDARK RIDEもまたHELLOWEEN的な複雑さの中で制作されていて、例えばヴァイカートとグラポウの不仲が進行していたこととか、二名の新規プロデューサーRoy ZとCharlie Bauerfeindを起用したことがよく取沙汰される。しかしながら本作を評するにあたってプロデューサーに関して言えばそれほど大きな影響があったとは思えない。本作を聴く限り、こういったダーク方向に針路をとっているHELLOWEENは少なくともデリス加入後に何度となく見られたし、多種多様なアプローチで楽曲を世に送り出すHELLOWEENの一側面がフィーチャーされたことを悪しざまに言うその理由づけとしてあげつらわれてしまうのだとしたら自身の仕事を果たした両プロデューサーも報われまい。ちょっとだけ味付けは濃かったかもしれないけどね。
アルバム全体を見渡す。決してHELLOWEENらしくないということはない。しかし、当然のことながらマイケルキスク時代のHELLOWEENを今でも唯一無二のHELLOWEENなのだと信じ続けるごく一部の偏狭なファンからすれば確かに本作は「よりHELLOWEENらしくない」方向に舵の切られた一作とうつるのかもしれない。しかしながらそれを言ってしまえば、キスクからデリスへとチェンジした段階でバンドのカラーは確かに変化したし、グラポウが”騒々しく”ギターを奏でている以上、カイ・ハンセンとヴァイカートのツイン時代と音色も雰囲気も異なる。前段に記述した通り、HELLOWEENがいくつも持つ多彩な表情の一つとしてダークな雰囲気を中心に据えた、コンセプトアルバムとしてとらえるのが適切な見方だろう。ただ個人的にはローランド・グラポウの騒々しさ、落ち着きのなさ、クセの強さを嫌っていて本作においては特にグラポウのギターが幾分耳障りに感じる部分があった。ただこういった細かな点はあくまでも個人的な趣味嗜好の部分の話であってアルバム全体の評価にそれほど大きく反映させるべきではないと考える。
楽曲別に見ていく。まずはヴァイキー作曲のALL OVER THE NATIONSを取り上げないわけにはいくまい。明るく前向きなコード感でスピードチューン、日本人の多くのファンが大喜びのスタイルではあるが歌詞の雰囲気は決して明るくなく、悩み、立ち止まりの状況を振り切って前進していこうという強さを感じさせるものになっている。しかもその前進の力は勇気や愛情ではなく、諦めに近いのかもしれないことが垣間見える。結局、勝者も敗者も同じなのだ。少なくともこの楽曲の中においては。
次曲、MR.TOUTUREはドラムのウリ・カッシュ作詞作曲。ドラマーとしてのウリ・カッシュはやや前面に出過ぎだなあ、と感じるところもありHELLOWEENという枠組みの中でだけ見れば現任のダニ・ルブレのほうが断然好みなのだが、ソングライターとしてのウリ・カッシュのセンス、才能はすさまじいものがある。その歌詞は詩的で物語があり、楽曲はその物語に確かに寄り添う。おなじくウリ・カッシュが手掛けたDepartedにも言えることだが、ウリ・カッシュの曲はデリスのヴォーカルとの親和性が高く、デリスが歌うHELLOWEENにとってはプラスの材料だったと言えるだろう。
If I Could Flyは個人的には本アルバムのベストソングにあげたい。切々と歌い上げるデリスの声が素晴らしく、印象的なピアノサウンドが優しく、悲しく寄り添う。メッセージはシンプルであり、シンプルだからこそ響く一曲だ。陰惨とし鬱屈している現況をリアルとフィクションの狭間で如実に表現し、同時にそこからの離脱、離陸をはかろうとしているこの力強さはこのアルバム全体を貫く一本の柱になっている。
最後に本アルバムのテーマにもなっているDARK RIDEを取り上げる。グラポウ作詞作曲ということでお察しの騒々しさである。メロディ自体はキャッチ―で聴きやすく日本人ファンもHELLOWEENのアルバムでお馴染みの長い曲として受け入れられる部類ではあるのだろうが、ヴァイカートのそれとの大きな違いは、やはり平坦な展開と後ろで鳴るクセの強いギターだろう。全体的に弾き過ぎだしギターソロは手癖に溢れており楽曲に対してあまり効果的なアプローチではない。より簡単に言ってしまうなら、グラポウ自身が好き勝手やることに終始してしまっているような曲、ということになろうか。素晴らしくひっかかるメロディラインでありながらどうにも今一つである本曲は当時のグラポウのスタイルがHELLOWEENに決定的に合わなかった、この一点を象徴していると言える。
この作品、DARK RIDEまでの路線を結果としてHELLOWEENは全体としては訣別していくことになる。次作以降、HELLOWEENはLegacyに至るまでの中で原点回帰的なアプローチを模索していく。結果として現在も続くラインアップの完成を見ることになるのだが、その分岐点となったのは、或は本作なのかもしれない。