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次は司法書士とるぞ! おかげさまで行政書士試験は突破できました2020!交通安全アドバイザーのhigashiです。

自賠責保険3.過失減額が独特です

お疲れ様です。

交通事故では双方に過失がある場合、その過失の割合によって損害賠償を決定していくことになります。こういった書き方をしてしまうと、民法の相殺の部分を勉強していると、ん? あれ? となるかもしれませんが、実務上どんな感じで処理をしているのかを簡単にご説明いたします。

 

1.まずは物損部分と人身部分に切り分けます

規模の大きい交通事故の場合は切り分けずに一緒に進めることもありますが、基本的には物は物、人身は人身で分離して処理をしていくことが多くなっています。今回は自賠責保険についての解説が趣旨ですから、ひとまず対物はおいておきましょう。

 

2.基本は第一当時者側が一括して対応

人身事故が生じると発生する費用の中心を占めるのはやはり治療費、ということになると思います。一般的な損害賠償の考え方では「発生した損害」を「被害者が立証して」「加害者に請求」と言うのが通常の流れですが、交通事故で人身負傷がある場合はとにもかくにも治療を進めてもらわなければなりません。しかし、この治療費を被害者が全て立て替えていく、と言うのは自賠責保険の1点20円、10割請求を考えればあまりにも被害者の負担が大きすぎます。そのため、事故第一当事者側が、治療費をその都度精算していくことになります。つまり、交通事故の事実が明らかである以上、事故で負傷をした人は医療機関で診察、治療を受ければそれ以上の立証は必要ありません。第一当事者側は精算した治療費を自賠責保険から回収するために診断書、診療報酬明細書を医療機関から取り付け、治療費を支払ったことを証する情報と合わせて自賠責保険へ請求し、回収をしていくわけです。

では、第一当事者側が治療費などを精算していく際、事故で負傷をした相手方にも過失があったとしたらいかがでしょうか。その過失の分、精算をする治療費を減額しても良いのか、ということがしばしば問題になります。

 この点、実務上の処理は、誰にどういったお金を支払うのかによって変化します。

 

3.病院に直接に治療費を加害者が支払う場合

 この場合、病院は過失分については被害者に請求、のようなことはしてくれませんから原則として全額を病院に支払うようになります。支払った金額のうち相手方過失分の処理については直接に相手方に返済を求めてももちろん構いませんが実務上は困難ですので、最終的に全ての治療が終わり、総損害を算定する際に過払いとして扱い、これから支払う慰謝料から減じるのが一般的です。ただし、当該事故の人身部分の総損害が自賠責保険の範囲内である場合は、相手の過失が70パーセント未満であれば、過失を考慮せず全額を賠償して問題ありません。ここが自賠責保険の特徴的な部分であり、自賠責保険では例えば50:50の過失の事故であっても、入通院部分であれば120万円までであれば減額することなく給付されます。出来るだけ広範囲の被害者を救済していく保険制度ですから、その特徴的な部分と言えるでしょう。なお、過失が70%以上である場合は入院通院部分については20パーセント減額の対象となり、全額を支払ってしまうことによって自賠責からの回収が一部不能になってしまう可能性がありますので注意が必要ですが、過失状況から70%以上か60%なのかがはっきりと定まるような交通事故は少なく、明らかに90%以上相手方負傷者が過失を有する、といったようなケースでもない限りはあまり問題にならない部分です。

 

4.相手が治療費を立て替えている場合

 あらかじめ相手の過失分を減じることも検討できますが、治療をしっかり継続し妥当な期間内で終えていただくことを前提に考えれば、一旦全額を精算すべき部分でしょう。前述同様、慰謝料で調整するべき場面です。

 

5.休業損害の発生がある場合など

 相手方過失が考慮しなければいけない程度に大きく、かつ休業損害などの周辺損害が生じている場合は取り扱いに注意が必要です。相手方が過失割合についてある程度納得をしている場合については慰謝料で調整することを事前に通知しておくのが良いでしょう。多くの場合、休業損害として支払う損害賠償金は負傷者の生活の糧となるものであり、それを減額することは最終的な示談交渉のことを考えるとあまり望ましくありません。しかしながらどこかで減額は必ずしなければならない以上、最終の慰謝料で調整することは言いづらくても最初に言っておく。これが大事です。調整の対象は治療費にも当然に及びますから、あまり長期間の休業はすべきではない、ということが相手に伝わればシメたものです。また、事故相手が過失についてある程度納得しているということは少なくとも対話ができる状況であると思われますから、こう言ったケースではむしろ第一当事者側からロードマップを提案し、負傷者が最も損を少なくできるように提案してあげるのが良いでしょう。

 一方で、相手が過失に納得していないケースでは、休業損害は支払うけれど慰謝料で調整する、と言ってもそう簡単には納得しないでしょう。過失に納得していないということはその納得していない分だけ被害者意識がある、ということですから、こう言った場合通院や休業損害の長期化も懸念されます。だからこそ、慰謝料で絶対に調整すること、過失割合は納得の問題ではないことを強く、そして冷静に、繰り返し主張していきましょう。相手側に請求できる自分達側の損害があればその存在をちらつかせることも有効です。そうすると、相手は「ならばどうすれば良いのか」という方向に行きますので、そこからが事故処理実務者の腕の見せ所です。弁護士を入れさせて、その上で治療費の一括や休業損害を全て止めてしまうのも一つの手です。損害賠償請求の原則である、「被害者が」「損害を立証して」「請求する」形に戻してしまうわけですね。とはいえ、全てを打ち切るのはあまりにも強硬に過ぎますから、例えば休業損害については打ち切るが治療費の一括は続ける、など選択的に組み合わせて使っていくのが良いでしょう。治療費の一括を続けることは、診断書、診療報酬明細書の取得など第一当事者側にもメリットがあるからです。

 

今回は少し長くなりすみません。

お疲れ様でした。

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