噛み砕き民法-2:胎児の権利
お疲れ様です。
さて、今回は「胎児」の話です。人は生まれ落ちたその時に権利能力を得て、死亡する時にそれを失う。とりあえず日本の民法ではそういうことになっています。とはいえ、それでは何かと不都合が生じてしまうんですね。例えば、お腹の中で成長中の胎児がいて、お父さんが、お母さんの妊娠中に不慮の事故で死亡してしまった場合。お腹の中にいたから何にも権利ないですよ仕方ないです〜ってわけにはやっぱり行かないんですね。生まれてからそういう死亡事故があったなら慰謝料だってもらえたはずなのに。そんな不都合を回避するために、民法では次の三つについて、胎児に権利能力を認めています。
損害賠償請求 721条
相続 886条
遺贈 965条
とは言え、お腹の中にいるうちにどうやって損害賠償請求ができるのでしょうか。これは考え方の部分ですが、
1.お腹の中にいるうちからこの3つについては権利がある!もし死産になったら遡ってそれが消滅してしまう
2.お腹の中にいるうちには権利がない。だから、無事に生まれてきたら遡って権利を手にすることになる
1番を解除条件説、2番を停止条件説と言います。法律の世界で言うとこの条件ってなんだろう、なんて話はまた別の機会で。
損害賠償請求については、裁判では2番の考え方を採用しています。つまり、お腹の中にいるうちにはまだ権利はないんだよ。→だから、お父さんやお母さんみたいな人がそれを代理して処理なんかできないんだよ→無事に生まれてきたらそこで遡って権利をゲット!親権者なんかが代わりに権利行使していくことができるんだよ、とまあ、ものすごくざっくりいくとこんな感じです。お腹の中に10年とか入っているわけではないですから、これでいいじゃん、ってことなんでしょうね。
一方で、例えば相続があったり遺贈があったりした場合、不動産だと登記ってのを入れていかないといけないわけです。土地だったら土地で、要するに名前を登録しておくわけです。で、それが胎児に相続された。権利能力ないから名前も入れられません...としてしまっても別に悪くはないんでしょうが、現代社会ではそんなに死産ってたくさんは発生しないし、不動産の登記はできるだけ早く、正しい権利の状態を示したいっていう力が働くので、「胎児」として登記してOKだよ、と言うことになっています。もし残念ながら死産だったら後からそれを消すっていう手間は出てしまうんだけど、登記だと、登場人物として、お腹の中に子供いますからね、ってエントリーしておいた方が、相続で遺産を整理していく中ではやっぱり大事ってことなんでしょうかね。
ちなみに、認められているのはあくまでもエントリーしておくだけです。お父さんやお母さんが勝手に胎児の名前で遺産分割しておいてやったぜ、なんてのは認められません。法律用語っぽい感じで表現すると、あくまでも認められているのは相続、遺贈、損害賠償のみで、遺産分割協議ってぜんっぜん別の法律行為なんですね。そんなのはダメですよ、ってことです。
この辺は相続について突っ込んでお話をしていかないとあんまりピンとこない部分だと思います。
大事な部分
・胎児に認められる権利能力は、相続、遺贈、損害賠償請求
・判例では、生まれて出てきたら遡って権利を取得する「停止条件説」をとっているよ。
お疲れ様でした!